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インドのカシミール地方は、世界的にも有名なサフランの産地です。そして、この地方のサフランは、スーフィーと深いつながりがあるのです。パンポレのサフラン栽培農家の人は、みんな、サフランはスーフィーの聖者、ショクババがパンポレにもたらしてくれたもの、と信じています。しかし、神話と歴史的事実は違う、と言うカシミール大学のG.M.ミル教授の話を、ここでご紹介しましょう。
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カシミールのサフラン博士 -G.M.ミル教授-おいしそーな、いきいきサフラン スリナガルの中心地ラワルチョークで、5-6軒の本屋にいって、サフランについての本がないか、探して歩きましたが、どこにも一冊もありません。 あっちにいったり、こっちにいったり、探したあげくにようやく冷房のきいてるけっこう大きな本屋がありました。 そこで見つけた唯一のサフランの本。 「カシミールのサフラン栽培学」というぎょうぎょうしいタイトルで、そこにはかなりアカデミックな研究論文が書いてありました。 中身をすこし抜粋してみると・・・ 街の本屋で見つけたサフラン本、「カシミールのサフラン栽培学」 ○サフラン(Crocus sativus)は、インド大陸においては、カシミールとキシュトワール地方においてのみ栽培される。 ○カシミールにおけるサフランの収穫は、1968年には約4,4トンで、1983年には146トンになり、約33倍である。 ○サフランの栽培には、水はけのよい、ローム土が適している。カルシウムが含まれているのが理想的。 ○カシミールの気候は、夏はそれほど暑くなく、冬はそれほど厳しくなく、雨季が存在しない。 ○現在(1993年発行)においては、ほとんど例外なく、サフラン畑には肥料はもちいられない。 これ以外は、まあおもしろくもないむずかしい比較対照の調査報告と指標が書いてあります。 ちょっと良く理解できないので、これは直接本人にあって聞いたほうがいいかな、と思ったので、翌日、リキシャを頼んで、カシミール大学のキャンパスに出かけました。 本の裏表紙に、「現在、カシミール大学の中央アジア研究所に勤務している」と書いてあったので、大学のゲートでこの研究所の場所を聞いて、そこから5分ほど歩いたところの建物に行きました。 めでたく中央アジア研究所と書いてある建物の受付で、この本を見せながら、「G.M.ミル教授に日本から会いにきたけど、教授はいますか?」と聞くと、「じゃあ、どうぞこちらに・・・」と言って、案内してくれるではないですか? ミル教授の部屋は受付のとなりの大きな部屋でした。 2,3分待っていると、ミル教授が誰か大学の職員と話しながら入ってきて、私を見ると、上機嫌で、「ウエルカム、、ウエルカム!」と連発しながら自分の机にすわり、私のためにチャイをたのんでくれました。 私が彼の書いた「カシミールのサフラン栽培学」を見せて、この本を買ったのだけど、質問があるので、やってきましたと言うと、たいへんよろこんで、「おお、この本はもう15年位前に出した私の最初の本なのですよ。よくこんな昔の本が手に入りましたね」と、それはもうおおよろこびなのです。 カシミール大学のG.M.ミル教授 「日本からサフランの取材に来たけど、サフランについての本はこれ以外にありませんでした」 と言って、私は彼にいくつかの質問をしました。 以下は、その質疑応答です。 ○カシミールのサフランはパンポレ村でしか栽培できないと言われているようですが、教授の本によると他にもいろいろな村で栽培されているようですね。 ★はい。もっとも広い耕地と多くの収穫量はパンポレですが、ほかにも何箇所かで栽培されています。パンポレでしか栽培できないと言うのは、基本的には農民が他の地域について無知であるということと、自分のところの価値を独占的に高めようという意図によるのでしょう。 ○サフランに肥料は与えないということが書いてあるし、農民たちも「神が与えている」と言ってますが、ほんとうに何も肥料はやらないのですか? ★必要な肥料を与えればもっと平米あたりの収穫量も増えるし、今まで栽培できなかった土地でも栽培できるようになるのですが、農民は無知なので昔ながらのやり方に頼っているのです。 エンジ色のサフラン(トップがついている) ○ムンバイで買っても、カシミールで買っても、農家から直接買っても、同じ値段だというのは、なぜでしょうか。 ★ディーラーの手に入ると、なんらかの操作が必ず入ります。彼らは商売人ですから、利益確保のためにあらゆる方法がとられて、品質的には純粋なものは皆無になるというのが現状かもしれません。 ○ということは、普通の市場で買ったら、純粋なカシミール・サフランは入手不可能だということですか? ★残念なことですが。 ○サフランの栽培は15世紀ごろにスーフィーの聖者によってもたらされた、とパンポレの人たちが言ってましたが、歴史的にはどうなのでしょうか? ★パンポレの農民が話すのは、神話としての意味合いが濃いですね。歴史的には、ふたつの伝承が伝えられています。ひとつは、15世紀ごろにイランから侵攻してきた王がアバンティプールに首都を築きました。その王がイランからサフランの種を持ってきて、パンポレで栽培しはじめたという話です。もうひとつは、やはり15-6世紀に、スペインからやってきた旅行者がサフランの種をパンポレの農家に与えたという話です。 ○どちらにしてもサフランは15-6世紀ごろから栽培され始めたということですね? ★そのとおりです。 教授とまじゅさん その日は、教授にお礼を言ってから、大学内のティー・スツールでサモサとチャイを飲んできました。 大学なかというのは、いつでも、どこでも、安いし、学生たちの雰囲気がいきいきしていて、いいものですね。 私は教授の話を聞いて、多分イランからやってきた王様がサフランを栽培しはじめたというのが、いちばんありそうな話だと思って、数日後アバンティプールにも行ってみました。 アバンティプールはパンポレから約15キロのところにあり、そこには8世紀に作られたというヒンズー・テンプルがあったのです。 ドラビダ人がいたところに、アーリア人が入り込み、そこにイスラム教の王が首都を作り、めまぐるしいインドの歴史の一こまをかいまみるような気分でした。 このヒンズー・テンプルの横には、大きなモスクが建てられていました。 8世紀につくられたヒンズー寺院。 帰り道、乗り合いタクシーから見ていると、あるところまでは田園風景が広がり、パンポレの手前10キロくらいに入ると、サフラン畑が広がっていました。 10月末にここにくれば、サフランの花とその収穫風景が見られるわけですね。 「また,来れたらいいな」、と思いました。 |
左は、私がサフラン栽培農家から直接買ったサフラン。生薬のような強い香りがして、色がエンジ色、ひとつひとつにめしべのトップの部分がついている。右は、ラウルチョークの店で買ったさふらん。色が赤っぽく、半分くらいにはトップの部分がなく、線のようなサフランである。ここいらの人は、だれもがこれはフェイク(にせもの)だと言います。しかも、驚くことに、「J&K政府承認」と明記されているのです。いったい、何を承認しているのだろうと、不思議です。が、私もようやくいろいろサフランについてわかってきたね。 |
最良のサフランの見分け方を、カシミールのサフラン栽培農家から聞きました。
カシミール・サフランは品質も世界一だと言われていますが、価格も世界一高いのです。それでイランなどから安いサフランが入り込んで、ミックスされたりして、ディーラーなどの手によって操作されているのが現状です。 私はゴアやムンバイでサフラン1g、250から300ルピー(約650-700円)で売られているから、カシミールに来たら半分くらいの価格だろうと思ってました。 しかし、スリナガルの銀座通り、ラウルチョークの目抜き通りのドライフルーツ・ショップで買っても、同じ値段です。 驚いたことに、パンポレという村のサフラン栽培農家から直接買っても、やっぱり1g300ルピー(約700円)なのです。 しかし、その秘密が少しづつ解き明かされていくと、私はふかーく感心しましたね。 わかってみると、なんでも、「なるほど」と納得するものですが、このサフランの価格と品質のからくりは、なるほど、を凌駕する「なーるほど、そうなのか!」でした。 ※ひとつは、さきほど書いたように、安いイラン産のサフランと混ぜること。 ※第二の方法は、サフラン農家はサフランの上のほうと下のほうを半分にちぎって出すことがあって、下のほうはだいたい8分の1くらいの値段で売られるそうなのです。それに、イランからやってきた安いサフランを混ぜると、ゴアの最終小売価格が300ルピーで収まるのです。 しかし、パンポレまでやってきて、サフラン栽培農家から直接買っても、いちばんよい部分だけを買おうとすると、やはり1g300ルピーになるというわけです。 では、ベストな部分は何になるのかと言うと、、アーユルヴェーダの薬の材料として買われていくのです。当然、アーユルヴェーダの医者は、何が本物か知ってますからね。そこから、アーユルヴェーダの薬も調合するのでしょうから。 ですから、よいサフランの見分け方は、このようにして見分けてください。 (1)匂いが強く、その匂いは生薬(漢方)のようなにおいであること。 (2)色が濃いエンジ色であり、赤やオレンジ色ではないこと。最近は、色まで染められた人工のものがでてきているらしい。 (3)ちょっと見ると、盛りあがった山のようなめしべの上の部分がついていること。ただの細い線のようなサフランは、めしべの上の部分をアーユルヴェーダの薬用にとったあとの、安い品質のものとされる。 このようなことを知ったうえでサフランを購入してみると、またひと味おもしろみも増すというものです。 サフランは高価なものです。もし小売価格が1gあたり1000円以下だったとしたら、ディーラーたちによって何か細工(工夫)がされていると考えて、間違いないでしょうね。 いろいろな価格のサフランを検討してみながら、最高級のサフランの味わいもお楽しみになってくださいね。 |
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